抵抗勢力が並べる「性悪説の仮説」

2016年10月14日

先の「時短労働」を例に、性善説と性悪説の話をしたいと思います。
中小企業やベンチャー企業で時短労働を認めると、いったい周囲にどのような変化が生まれるでしょうか。
実はそういう働き方をされる人は、意外にも自分の時間に対するマネジメントが厳しいのです。
遅く来て早く帰るということに対する負い目があり、夜遅くまで残業もできないので、集中力はとりわけ高いです。
すると周りの社員が、その生産性の高さに驚きます。自分たちの仕事の進め方はなんて生産性が悪いのか、と気がつき、仕事の仕方をあらためる場合が多いのです。

このように、多様な働き方を受容することは、ポジティブな面がたくさんあります。
もちろん周囲の嫉妬を買ったり、無理な要望や非難などを呼んだりというネガティブな面もたくさんあるでしょう。しかしそこは果敢に攻めて、多様な人材、多様な働き方を取り入れてほしい。
そうすれば採用力と定着率が高くなり、魅力的な会社のひとつに必ずなります。

もしかしてあなたは「時短で働く人が、なんの後ろめたさも感じずに、まったく成果を出さない可能性もあるのでは?」と思っているでしょうか。実はそれはその人個人の責任ではなく、企業側の責任だと私は考えます。誰かがまったく働かない、生産性がひどく悪いとしたら、それはそういう残念な社風なのです。

たとえば高橋恭介という人間がA社にいた場合、周囲の社員誰もが手抜きをしがちで、常に70%くらいのパフォーマンスしか出さない人ばかりだったら、私自身もそういう働き方をするかもしれません。でも、全員が真剣にいきいきと働き、残業も厭わず、自己成長と会社の成長に邁進しているB社にいたら、同じ高橋恭介も100%フルスロットルで働けるのです。

このように個人の働き方は、個人の責任ではなく、企業側の責任です。企業が働きやすい風土や環境を提供していれば、人は間違いなく一生懸命働きます。またおもしろいことですが、その風土に馴染まない人は自然とはじき出されます。
採用においても、経営者は自分に責任を感じるべきです。「あんな働かないヤツは最低だ」と社員に責任を求めてはいけません。採用したのは経営者ご自身なのであり、「私の見る目がなかった」という自責の精神が必要なのです。
時短労働でも在宅勤務でも、ある制度を新たに始めようとすると、必ずといってよいほど抵抗勢力が現れます。彼らは現状維持が目的で、「性悪説の仮説」を並べ立てます。

人事評価制度でいえば「当社の管理職の現状レベルでは甘辛が極端に出るに決まっています」「営業で忙しいのにこれ以上時間を割けません」などといいだします。さきほどの「時短で働く人が、なんの後ろめたさも感じずに、まったく成果を出さない可能性もあるのでは?」というのも同じ、性悪説の仮説なのです。
そういうことを並べ立てる人は、はっきりいえば、イノベーションを起こす人ではありません。
ナンバー2、ナンバー3であれば、そういう現実的(消極的)な意見を述べるタイプでもよいかもしれませんが、企業のトップである経営者はやはり現状を切り開いて、よりよい環境を創造していくべきです。

ですから、新しい規則や制度を始めるときには、性善説の仮説を立てねばなりません。そして、それが成立しないリスクファクターをつぶしていく必要があります。特に人事制度においては、性悪説の仮説を経営者が受け入れてしまったら、企業は簡単に廃業に追い込まれてしまいます。
なぜなら、「現状維持」は「企業の衰退」でしかないからです。水の流れが留まると濁っていくように。

物事には何でも二面性が存在します。事業計画においても、性善説の仮説と性悪説の仮説があり、経営者には常に経営判断が迫られます。

たとえば、y=axのaを10にすれば黒字ですし、aが0・5だったら赤字になります。このaを決められるのは、最終決裁者、すなわち経営者にしかできません。経営判断とは、事象としては、プラスになるかマイナスになるかをジャッジすることです。現状維持を望む経営者は、性悪説すなわちy=axのaは小さいという判断をするでしょう。対して、会社の変革を望む経営者は、aが大きいと判断できるかもしれません。

ところが、人事となるといきなり性悪説を取る経営者が大勢います。事業計画においては世間の機微を読むことができ、大胆な計画を実行できる経営者であっても、社内の人事だと冷静な判断が下せないという方がわりと多いのです。

特にサラリーマン経験が少ない経営者ほど、一般社員の気持ちがわからない傾向があるように思います。プロ野球の世界に喩えると、ジャイアンツの終身名誉監督、長嶋茂雄さんでしょうか。「名選手名監督にならず」という言葉もありましたが、天才には凡人の気持ちがよくわからないのです。
たぶん長嶋監督は自分の教え方で伝わるはずだと思っていたと思いますが、選手たちにはなかなか伝わらなかったようです。
天才的な感性やセンスで動いているので、理論立ててわかりやすく説明することが不得手だったのかもしれません。
では、サラリーマン経験の長い経営者だとどうなるかというと、0を1にするというイノベーション力が低かったりします。それはそれで、経営者の資質としては大きな問題かもしれません。